株式会社オフィス オウさんの記事【正の中国情報:2016/04/12】
【正の中国情報:2016/04/12】
● 特集! 「中国人、爆買の考察」
1.爆買いの香港から日本へのシフト
数年前まで、香港で爆買いをしていた大陸の中国人は、余りの爆買いぶりで、香港人が日常買いたいモ ノが店から消えていて買えないことが度々起きて、爆買い反対のデモまで起きるようになった。 香港側は、粉ミルクの大陸への持ち出しを制限、中国側も香港への越境頻度を制限する等をして沈静化 を図ったが、沈静化し過ぎて、今度は香港の小売業が不振に陥る事態になっていると言う。 香港での中国人の爆買いは、ここ2年間でその舞台を日本にシフトした。
2.爆買いの背景にあるもの
爆買いの日本へのシフトが起きた契機の一つに、中国政府が2013年に「旅行法」を施行したことが挙げ られる。 中国の旅行業界では、利益が出ない格安の旅行商品を売り、現地で強制的に買物をさせたり、 現地でオプショナルツアーに強制参加させたりして儲ける商法が普通だったが、この法律でこうした旅行 商品は違法とされた。 「旅行法」が施行されると、香港や東南アジア行きの旅行商品は倍近くも値上がりし、悪慣行が殆どなか った日本向けと大差ない値段になった。 これが法律施行の翌年から、中国人の訪日が急増する契機に なったのではないかと見ている。 もちろん、日本シフトには、多くの中国人が乗っていたマレーシア航空 機の行方不明事件(2014/3)、中国によるジョンソン南礁埋立を巡るフィリピンとの領土紛争等も、「安全」 な日本へのシフトに一定の影響があったのではなかろうか。 加えて、2013/1~2015/6までの期間に、日本円は元に対し3割も円安になった。 その結果、日本と中国の物価差は縮まり、日本の方が安いモノも出てきた。 中国に日本から輸入したモ ノは、関税や流通税・流通経費が加算されるので、日本での値段よりかなり高くなってしまう。 ならば、日 本に行って爆買いして持ち帰れば、日本旅行の費用などすぐカバーできてしまうという計算が成り立つ。 中国では、日本で爆買いした商品を、ネット通販で販売するサイトも立ち上げられていると言う。 炊飯器を10台購入する人もいるが、ひとつの家庭に10台もの炊飯器は要らない。 訪日中国人客の全 てが爆買い目的ではないとしても、多くの人が、それも訪日目的のひとつにしているからこそ、現在のよう な爆買い現象になっているのだ。 円安が訪日と爆買いを強く前に押したのは明らかで、ある意味ではアベノミクスの成果だとも言えよう。 ところで、中国人が日本で爆買いする動機は、単に安く購入できるというだけではない。 中国人は、自国のモノに強い不信感がある。 中国では、食の安全に関わる重大事件が何度も起きて来 たし、工業製品は、耐久性や品質の安定性を欠くものが多い。 逆に日本のモノに対する信頼感は盤石 で、これが日本で爆買いする動機づけになっていることは容易に想像できる。 訪日外国人の急増には、官民あげてのプロモーション、消費税の免税措置やビザの緩和が大いに功を奏 したことは事実であろうが、2013年以降急激に進んだ円安・日本品質のモノとサービス・日本各地にあ る温泉・保存されている古い建築や文化・アニメ等の若者文化、そして何よりも日本人が持つ気配りの精 神文化が、中国人を始め外国人を日本に魅きつけているのだと思われる。
3.爆買いの重要な意義
中国では、1990年代以降、学校でも社会でも反日教育が強化されたため、日本を知らない中国人や日 本人を知己に持たない中国人は、一般的に日本に対して抵抗感を持つ「嫌日」の人が多い。 加えて、中国ではメディアに対する情報統制も徹底しているため、日本の真実の情報が一般の中国人に は伝わり難い。 「絶対、日本になんか行くものか!」と思っていた人が、一度日本に来てみたら、「日本は 都会も田舎も清潔」・「日本人は温かく親切」なので感動し、何度もリピーターになって、日本に来ている人 が少なくないと言う。 歪んだ日本イメージでなく、等身大の真実の日本イメージを持つ中国人が、中国の 中で増加していくことは、色々な意味で重要な意義がある。
4.爆買いはこれからも続くのか
一方で、中国人観光客の訪日や爆買いが、これからも続くかどうかを危惧する向きも少なくない。 この問題を考えるには、幾つかの異なった切り口で問題を見れば、そのリスクの所在が見えて来よう。
○一つ目の切り口
日本人も40年ほど以前に、中国人ほどの規模と金額ではないが「海外旅行ブーム」や「爆買い」を経験し ている。 つまり、社会経済の発展段階があるステップに来ると「海外旅行ブーム」や「爆買い」現象が起き るものだという切り口で考えると、日本人のその後の海外旅行はどうなったかを知ることで、中国人の今 後も容易に推定できることになる。 実は、日本では、40年前の「海外旅行ブーム」の後も、海外旅行する 人は、さほど経済の好不況の影響を受けることなく増え続けてきている。 この切り口で言えば、中国経済がよほどの不振に陥らない限り、中国人の訪日客が減少する心配はない と言える。 ただ、訪日客減らなくても、次第に集合心理の働きやすい団体客から、個人客主体の訪日客 が多くなるに連れ、またリピートの客が多くなるに従って、「爆買い」の勢いは、「爆買い」などと形容するほ どの勢いではなくなる可能性が高いだろう。 また、中国の場合、政府による規制次第でどうにでもなる点 で、中国特有のカントリーリスクは考慮しておかなければならない。
○二つ目の切り口
「爆買い」を起こした要因は、「円安」・「日本品質の魅力」・「自国産品への不信」等々だったのだが、「日本 品質の魅力」と「自国産品への不信」はこれからも相当長い間、持続するものと思われるものの、「為替」 だけは簡単に激変するかも知れない。 「為替」リスクはあると認識しておく必要がある。
○三つ目の切り口
豊かになるに従って、「物欲」は、さほど優先度の高いものでは無くなることである。 これも、社会経済の発展段階があるステップに来ると起きる事象だと思われるが、ほぼ揃うべきものが揃 った段階になると、モノ以外の消費に価値を見出すことになる。 中国人が何時頃、その段階に達するか は分からないが、必ずその時が来るわけで、「爆買い」が未来永劫に持続するものでないことは理解して おく必要があろう。 しかし、だからと言って、目前にビジネスチャンスがあるのを見過ごす必要もないこと は、言わずもがなである。