ノマド・グローバルCEO桐山一人のコラム【マイナス金利って、なに? 狙いは?】

<マイナス金利って、なに? 狙いは?>

先日からニュースで騒がれている「マイナス金利」ですが、意味わかりませんよね。そもそも金利とは、利子が増えていく現象を意味する訳ですから、なんのことかと思います。

その言葉通り、金利がマイナスということですから、お金を預けておくと元本に利子が付いてお金が増えるということではなく、逆にお金が減っていくということです。利息が逆転現象を起こすという訳です。

とはいえ、現実のところは、このマイナス金利は日本銀行と民間銀行の間の取引に適用されることであり、私たち一般消費者の借金やローンではこのマイナス金利が適用されるわけではありません

残念ですが、私たちが銀行にお金を借りていたとしても、銀行から金利を貰えるということではありません

しかし、単純に金利が0金利よりも下がったわけですから、民間銀行の借り入れ金利や住宅ローン金利などは下がる可能性もあるかも知れません。

この度の政府の期待する効果の一つは「円安」です。

金利の高い通貨の価値は上がり、金利の低い通貨の価値は下がる。当然の現象ですが、ドルの価値は上がり、マイナス金利のエン(円)の価値は下がることになります。

実際に、ここ数日でドル高エン安が進みましたよね。このマイナス金利の効果がどこまで持続するかは不明ですが、とりあえずは、円安と株高が戻ってきたことは周知の事実です。

<マイナス金利が起きる理由>

昨年(2015年)1月に、スイスで長期金利(10年債の利回り)がマイナスに転じるという史上初の珍事が起きました。

隣国のドイツでも、既に短期金利がマイナスになっているなど、ユーロ圏ではマイナス金利が恒常化しつつあります。

つまり国債を保有していると損失が発生するということです。

それでは何故、スイスやドイツでは政府や中央銀行はマイナス金利という異常事態を容認しているのでしょうか。

国債のマイナス金利が起きる理由の一つは、銀行に国債を買わせずに民間への融資を増やさせたいためです。

銀行が無難策をとり国債ばかりを買って貸し出しに回さない状態が続くと、国内の資金循環が停滞して一向に景気が回復しないからです。

国債を買って損失が出る状態にしておけば、銀行は民間への貸し出しにシフトせざるをえなくなります。つまり、銀行が民間企業などへの融資を増やしていくための強制政策とも言える方針です。

もう一つの理由は、デフレが深刻化している現状への対応策です。

金利は常にインフレ率と同等の水準で推移しないと経済は破綻します。例えばインフレ率が5%と高い状態なのに金利が1%しか付かなければ、年間の購買力が4%ずつ目減りしていく計算になります。

こういった状況が続くと、個人も法人も、お金を貯めずに使い切らないと損をするということに成るので、消費が過剰に成って益々インフレが進行します。

デフレの場合はこれとは真逆です。

物価が年率マイナス1%なのに金利が5%あれば、消費などせずに誰しも貯蓄しようと考えるでしょう。そうなるとモノが売れなくなって益々デフレが進行して景気が悪化していくことに成ります。

デフレを解消するには、物価水準よりも金利が低ければ、消費や投資を旺盛に増やそうとする意志が働きます。インフレ率がマイナス1%なら、金利もマイナス1%とかマイナス2%とか、物価よりも低い水準に成ればよい訳です。

ユーロ圏では、ギリシャ問題以降、長くデフレが続いており、景気の足かせとなっていました。

長期金利がマイナスに転じたスイスでは、物価上昇率がマイナス0.5%(2015年1月)というデフレ状態です。同時期にドイツもマイナス0.4%でした。

マイナス金利とはある意味、強引な金融緩和(景気対策)であるということです。

 

<マイナス金利で国債は暴落しないの?>

もし、マイナス金利で誰も国債を買わなくなれば、国債価格が暴落することになります。

しかし、スイスやドイツでは、マイナス金利になって以降も、相変わらず金融機関はある程度の国債を購入しており、暴落などは起きていません。

マイナス金利になっても国債が売れる理由は、それでもタンス預金をするよりは、低リスク・低コストだからでしょう。

私たち一般人は、金利がマイナスだと家の中でタンス預金を考えますが、金融機関などの機関投資家は、保有する金額が数百億円の大きな単位になるでしょうから、タンス預金することは出来ず、単純に現金で保有しておくだけでは、セキュリティの面において多大なコストが発生します

国債がマイナス金利だとしても、現金のまま保有しておくコストよりも安ければ購入した方がよいという考えですね。

もう一つは、国債は金融機関同士の短期資金の融通の際に、担保として利用できるメリットがあります

だから機関投資家は、たとえマイナス金利であっても、国債の形で保有しておくことが有利に働く訳ですね。スイスやドイツがマイナス金利であっても、国債の購入が絶えず、よって国債の暴落が起きないのも理解できる気がします。

結局、国債も株も為替も、上がれば下がり、下がれば上がるというのもこうした政策の影響によってのことです。

私たち一般の投資家は、それぞれの価格の変動に一喜一憂せずに、経済の動きや変化を穏やかな気持ちで冷静に観るようにしましょう。(執筆者:桐山 一人)

2016-02-04 | Posted in blogNo Comments »